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旬のイチおし
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 「桜鱒 -サクラマス-」
  

サクラマス。
春にぴったりの響きを持つ魚ではないでしょうか。

築地では本マスと呼ばれるこの魚、『築地魚河岸三代目』では、十九巻に登場しています。

サクラマス、サツキマス、ニジマス、ヒメマスなど、マスと呼ばれる魚は多く存在しますが、マス科というものは存在せず、すべてサケ科の仲間です。

サクラマスは、元々はサケ科サケ属に分類される川魚のヤマメです。
ヤマメの一部が海へと下り、オホーツク海を大きく回遊し、一年後の春、桜の咲く時期に、生まれた川へと戻ってくる。
これがサクラマスです。

このように海へ下っていくものを降海型と言い、川に残るものを陸封型と言います。
海に下る、川に留まるの違いはありますが、サクラマスもヤマメも、孵化した時は同じ魚です。
普通、標準和名は、一種に対してひとつなのですが、サケ科は例外で、降海型、陸封型によって、標準和名が変わります。
サクラマスもヤマメも、どちらも歴とした標準和名なのです。

同じサケ科のアマゴの降海型は、サツキマスと呼ばれます。
サツキマスは、桜ではなく、サツキの咲く時期に生まれた川に戻ってくるため、サクラマスに倣って、サツキマスと呼ばれるようになったと言われています。

ちなみに降海型が「マス」と呼ばれるのかと言うと、そうではなく、ニジマス、ヒメマスは「マス」と呼ばれますが、どちらも陸封型で、ニジマスが海に下るとスチィールヘッド、ヒメマスが海に下るとベニザケと呼ばれるようになります。

さて、回遊を終えて戻ってきたサクラマスは、もはやヤマメとは、別種の魚のように成長しています。
海で充分に栄養を摂取した体は、ヤマメをはるかに凌駕し、60センチを超えるものも珍しくありません。
ヤマメの体側には、小判状の模様(パーマーク)が綺麗に並んでいますが、サクラマスの体側は、うっすらとオレンジに染まった白銀色をしています。

顔はサケ科特有の強面な顔ではなく、どちらかと言えば、丸みのある、優しい顔になっています。
昔の人は、この顔を見て、サケという激流が似合う名を使わず、マスという柔らかい呼び名を与えたとのではないかと、想像してしまいます。

大きくなったサクラマスの中でも、丸々として、特に体高が高いものを、板マスといいます。
お世辞にもスマートな姿とはいえず、コロコロとした、角の丸い菱形のようなシルエットですが、これはこれで、なんとも言えぬ、温かみのある姿です。

サクラマスの紅い身は、しっとりと柔らかく、芳醇な脂がのり、上品な旨味に満ちています。
シンプルな塩焼きを始めとして、ムニエル、フライ、ホイル焼きと、様々な料理に合うサクラマスですが、もっとも有名なものは、富山県の郷土料理である、マス寿司ではないでしょうか。
笹の葉で円形に包まれた押し寿司の一種で、酢で味付けした、サクラマスの押し寿司が美味しいことはもちろんですが、笹の葉の濃い緑に、サクラマスの切り身の淡いオレンジが映えて、食べるのが惜しくなるほどの美しさです。

一度、マス寿司を手に、のんびりと花見をしてみたいものです。
それは、目にも舌にも、最高に贅沢な春の日になるでしょう。<九>

★「千秋」「千秋 はなれ」、旬のイチおしは『さくらます(桜鱒)』です。
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